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大阪家庭裁判所 昭和62年(家)1218号 審判 1989年7月31日

申立人 元木富士子

相手方 永田直利 外7名

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立ての趣旨及び実情

(1)  申立人は、永田近房と、昭和36年2月頃から同人が急死した昭和51年10月3日まで、約15年間にわたり事実上の夫婦として同居し、内縁の関係にあった。

(2)  別紙目録記載(編略)の財産は、いずれも亡近房名義又は同人が税対策のために設立した会社の名義となっているが、実体は全て上記内縁中に夫婦で作った財産である。

(3)  よって、申立人は、亡近房の相続人(弟姉妹)である相手方らに対し、民法768条の類推適用により、別紙目録記載の財産の2分の1に相当する財産の分与を求める。

2  当裁判所の判断

(1)  本件記録によれば、申立人は、昭和35年の初め頃に永田近房(本籍兵庫県氷上郡○○町○○××番地)と知り合い、昭和36年2月頃から大阪市生野区内のアパートで同人と同居を始め、婚姻の届出はしなかったが、昭和51年10月3日同人が死亡するまで、事実上の夫婦として共同生活を続けてきたこと、相手方らは亡近房の弟姉妹であり、その相続人であることが認められる。

(2)  ところで、離婚により夫婦共同体が解体した場合に、夫婦の一方から他方に対する財産分与の請求を認め、婚姻中に夫婦が相協力して形成した実質的夫婦共有財産の精算を図ろうとする民法768条1項の趣旨を考慮すれば、内縁の夫婦共同体がその一方の死亡によって解消した場合においても、同様に実質的夫婦共有財産の精算がなされるのが相当であるから、同条項を類推適用し、内縁夫婦の生存者は死者の相続人を相手に財産分与の請求をすることができると解するのが相当である。

そして、上記財産分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同条2項及び家事審判法9条1項乙類5号を類推適用し、家庭裁判所に協議に代わる処分として家事審判を求めることができると解するのが相当であるが、離婚の場合に民法768条2項但書によって除斥期間が設けられていることを鑑みると、上記の家事審判を求めることができるのは、同項但書を類推適用し、内縁の夫婦関係が解消したとき、すなわち内録の夫婦の一方が死亡したときから2年を経過するまでの間に限られると解すべきである。

(3)  上記認定事実によると、永田近房が死亡し、同人と申立人との内縁関係が解消したのは昭和51年10月3日であるところ、申立人が本件申立てをしたのは昭和62年3月12日であることが記録上明らかである。そうすると、本件申立ては、上記の除斥期間を経過した後の不適法な申立てであるから、実体について審理するまでもなく、これを却下すべきである。

(4)  よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 増田耕兒)

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